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「武富士事件 ―海外財産の贈与と住所の認定―」(最高裁平成23年2月18日判決)☆納税者勝訴判決

武富士事件の最高裁判決が出ました。
 原審は、上告人が贈与税回避を可能にする状況を整えるために香港に出国するものであることを認識し、国内滞在日数を調整していたことをもって、住所の判断に当たって香港と国内における各滞在日数の多寡を主要な要素として考慮することを否定する理由として説示するが、一定の場所が住所に当たるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであり、主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではないから、滞在日数を調整していたことをもって、現に香港での滞在日数が本件期間中の約3分の2に及んでいる上告人について、本件香港居宅に生活の本拠たる実体があることを否定する理由とすることはできない。 このことは、法が民法上の概念である「住所」を用いて課税要件を定めているため、本件の争点が上記「住所」概念の解釈適用の問題となることから導かれる帰結であるといわざるを得ず、他方、贈与税回避を可能にする状況を整えるためにあえて国外に長期の滞在をするという行為が課税実務上想定されていなかった事態であり、このような方法による贈与税回避を容認することが適当でないというのであれば、法の解釈では限界があるので、そのような事態に対応できるような立法によって対処すべきものである。 本件期間中、国内では家族の居住する杉並居宅で起居していたことは、帰国時の滞在先として自然な選択であるし、上告人の会社内における地位ないし立場の重要性は、約2.5倍存する香港と国内との滞在日数の格差を覆して生活の本拠たる実体が国内にあることを認めるに足りる根拠となるとはいえず、香港に家財等を移動していない点は、費用や手続の煩雑さに照らせば別段不合理なことではなく、香港では部屋の清掃やシーツの交換などのサービスが受けられるアパートメントに滞在していた点も、昨今の単身で海外赴任する際の通例や上告人の地位、報酬、財産等に照らせば当然の自然な選択であって、およそ長期の滞在を予定していなかったなどとはいえないものである。
以上のように、法律が想定していない贈与税回避行為を事実認定で歯止めをかけようとすることは、本件のような巨額の贈与税が絡む場合課税の公平の観点からは問題がないわけでもない。
しかし、法律が想定してない範囲を租税回避の意図や事実認定で無理やり否認するようなことが普通に行われてしまうならば納税者の予測可能性は著しく減退し租税実務の現場でも混乱が予想されるだろう。
よって、本件の判決は妥当な結果であったと思う。

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